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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1315号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(申立)

一、控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人両名は、各自、株式会社横河電機製作所に対し、金五〇〇万円とこれに対する昭和三八年一一月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人両名の負担とする。」との判決を求めた。

二、被控訴人両名は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

(主張、証拠)

当事者双方の主張、証拠の提出、認否等は、左記のほか、原判決の事実摘示に記載するとおりであるから、これを引用する。

一、控訴人

1、別紙控訴人の主張に記載のとおり主張する。

2、原判決四枚目裏(記録四八丁)二行目の「対衆」を、「対象」とあらためる。

原判決五枚目裏(記録四九丁)一〇行目の「一株三七〇円である」に後に、「また横河電機の取締役会は、本件新株の発行価額を決定するに際し、被控訴人ら主張(原判決一三枚目表裏)のように証券会社である被控訴人らの意見を徴し、被控訴人らは昭和三六年一月七日に新株の発行価額を決定して横河電機の取締役会に具申したのであるが、被控訴人らが右発行価額の決定をした前日(昭和三六年一月六日)における横河電機の東京証券取引所での引値は金三六五円である」を加える。

原判決六枚目表(記録五〇丁)二行目三行目の「時価」の前に、「被控訴人らが前記発行価額を決定した前日の昭和三六年一月六日の」を加える。

同三行目の「金五九円」を、「金五四円」にあらためる。

原判決六枚目裏六行目の「前記時価」から同八行目までを削り、ここに、「別紙控訴人の主張の三に記載の金員を、それぞれ支払う義務がある」を加える。

原判決七枚目表(記録五一丁)末行目の「それぞれ」の後から同裏五行目までを削り、ここに、「別紙控訴人の主張の三に記載の金員の内金である金五〇〇万円(別紙控訴人の主張四)とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三八年一一月二六日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める」を加える。

3、証拠(省略)

4、証拠(省略)

二、被控訴人ら

1、別紙被控訴人らの主張に記載のとおり主張する。

2、原判決八枚目表(記録五二丁)五行目の「買取引」を、「買取引受」とあらためる。

原判決一三枚目表(記録五七丁)二行目の「株券」を、「株式」とあらためる。

原判決一五枚目裏(記録五九丁)九行目の「見績る」を、「見積る」とあらためる。

3、証拠(省略)

4、証拠(省略)

理由

一、当裁判所も、原審と同様に、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、左記のほか、原判決の理由に記載するとおりであるから、これを引用する。

1、原判決二〇枚目表(記録六四丁)七行目の「第四項の事実」の後から同行目の「争いがない」までを削り、ここに、「のうち原告が昭和三六年三月一五日に訴外木嶋正邦から横河電機新株一〇〇株の譲渡を受けた株主であることは前記認定(原判決一八枚目裏)のとおりであり、その余の事実については被告らにおいて明らかに争わないためこれを自白したものとみなす」を加える。

2、原判決二二枚目表(記録六六丁)八行目の「一株三七〇円であつたこと」の後に、「被告らが本件新株の発行価額を決定した前日(昭和三六年一月六日)における横河電機の東京証券取引所での引値が金三六五円であつたこと」を加える。

3、原判決二四枚目表(記録六八丁)六行目の後に、「原告は、別紙控訴人の主張の二に記載のように、被告らが横河電機の取締役会の求めにより本件新株の発行価額を決定した前日(昭和三六年一月六日)における横河電機の東京証券取引所での引値金三六五円が本件新株の公正なる発行価額であると主張する。しかしながら、本件のように増資により新株一六九〇万株(うち一五〇万株は公募)が発行される場合には(このことは当事者間に争いがない)、それだけ株式市場に横川電機株式の供給が増加するわけであつて、従来の株式の需給関係に基本的な変化を生ずる可能性のあることは原審の説明するとおりであり、これに本件新株発行当時における国内経済ないし国際経済の見通し、景気の動向、株式市況の状況等についての原審認定(原判決二三枚目表二行三行、同一四枚目表七行目以下)の事実を考慮に入れて考察すると、原審の認定した経緯と方法(原判決一一枚目表末行目以下)により決定された一株金三二〇円の発行価額は「著しく不公正な価額」ではないと認めるのが相当である。もつとも成立に争のない甲第九〇号証ないし同第一〇三号証の各一、二によれば、本件新株の発行後、横河電機の株価が値上りした事実が認められ、この結果からみると、発行価額を原告の主張するように金三六五円に決定しても公募新株を全額消化することが可能であつたかにうかがわれないでもない。しかし株価の動向を正確に予知することが不可能であることは経験則にてらし明らかなところであり、本件新株の発行価額を決定するに際し、新株発行後に横河電機の株価が確実に騰貴することを保証する原因事実が顕著であつたことを認めるに足りる証拠は全くないのであるから、結果において新株発行後に横河電機の株価が騰貴したからといつて、このことから前記の発行価額が著しく不公平であつたといえないことは明らかである」を加える。

4、原判決二四枚目裏(記録六八丁)二行目の「支払われたものであること」の後から、同四行目の「が認められる」の前までを削る。

同四行目五行目の「のみならず」から原判決二五枚目表(記録六九丁)一行目の「認められる」までを削る。

同行目の「もつとも」の後から、同五行目の「また」までを削る。

原判決二五枚目表末行目の「結論を」を、「前記報酬の性質を有することの認定を」とあらためる。

5、同裏二行目三行目の「手数料の額」の後に、「は」を加える。

二、よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

控訴人の主張

一、発行価額決定日の前日の時価終値より、それぞれの会社の事情によつて五%以下、一〇%以下、一五%以下という低い発行価額を定めなければ新株発行の成功が期せられないという場合に限つて、右を限度とし取締役会に対しそのような権限を付与したものである。従つて、時価そのものの価額で新株発行が達成されるという確固たる見通しが顕著である場合、時価終値より低い発行価額を以て新株を引受けた者は、差額支払の義務が生ずると解すべきである。なぜならば、そのような低い価額に相当する引受価額は、それだけ他の株主の利益を侵すことになるからである。また、商法第二八〇条の一一の法的性質が、株式会社の資本充実と他の株主保護とのために認められた特殊の損害賠償義務と解すべきであるからで、また、現場出資の場合、その不当評価は、著しく不公正なる発行価額による引受に異ならないとして第二八〇条の一一の責任を生ずるものと解される等々であるからである。

二、本件新株発行は、発行価額決定日前日の終値三六五円(被控訴人らは同日の終値を金三六五円として主張しているので、これを援用する)そのままの価額をもつて、極めて完全に成功できたものである。よつて、本件新株の公正なる発行価額は金三六五円であると訂正して主張する。すなわち、

(一) 横河電機は、横河財閥一族が支配権を掌握し卓越せる経営陣を網羅している、有名会社である。

(二) 横河電機は、本件新株発行以前から信用取引の銘柄に指定されていた優秀株式であつた。(甲第二九号証の二に横河の頭に・印がある)

(三) 本件新株の発行当時は、証券界にいわゆる岩戸景気が舞い込んだ時で買えば必ず儲かるという時代であつた。

(四) 甲第五五号証。「好人気オートメ株・トツプメーカー横河」の記事の如く、横河電機の地位安泰が誇示されていた。

(五) 乙第一五号証の一、横河電機の事業報告書69(昭和三五年四月一日~同年九月三〇日)「今後の見透し」中に「受注は創業以来の増加を示し三三年度受注総額三六億円、三四年度五九億円に対し三五年度は、総額に於て七〇億円を超えるものと思われます」とあり、また「更に業況の発展を計るため、株主各位の御支援、御協力のもとに工場設備の増強経営体制の強化等を実施して参る予定であります」と、本件の新株発行を行うことを暗に予告している。以上等々を援用する。

(六) 乙第一五号証の二、横河電気の事業報告書70(昭和三五年一〇月一日~三六年三月三一日)「今後の見透し」中に「合理化の進んでいる米国では機械設備投資額の約10%が計器関係に使用されていると言われますが、わが国では3%程度に過ぎず、設備近代化の為の計装化は景気の如何を問わずに更に普及されるべきと考えられます。」とあつて、横河電機の事業目的は前途洋々たるを誇示し、かつ、景気不景気に支配されず受注量は盛んになり横河電機の繁栄の奥深きを誇示している。

(七) 甲第二号証の買取引受契約成立と同時(売出期日以前)に売り出され、売出しと同時に売り切れてしまつて一般投資者の手には入らない程の盛況であつた。(この点は後に立証して明らかにする)

(八) 発行価額決定当時偉大なる人気を集めていた。この根本は、横河電機は事業活動に比し資本が僅少であつた。いわゆる過少資本であつた。このことは、近い将来に必ず新株発行による増資が行われるということを、証券会社は当然のこと一般投資家も、いわゆる公知の事実となつていた。

新株発行が行われれば、株主は額面価額五〇円によつて新株が割り当てられ、額面価額と時価との差額、いわゆるプレミアムが獲得できるという魅力に溢れていた。即ち、株主及び、一般投資家は、新株の発行の日を暁望していた。

(九) 果せるかな、昭和三七年二月二七日新株発行に関する決議がなされた(甲第八九号証)。即ち、〈1〉新株式三、〇〇〇万株を発行して株主に対し割り当てる。〈2〉発行価額は、一株につき五〇円。〈3〉昭和三七年三月三一日午後五時現在の株主に対して一〇株に対し新株七株を割り当てる。

(一〇) 横河電機の株価暴騰の状況は次の通りであつた。

1、本件新株の売出期日(甲第二号証)の初日たる昭和三六年一月二〇日、旧株三九八円、新株三八〇円(甲第二九号証の一、二)と値上りを示していた。

2、昭和三六年二月九日の終値は、旧株四一九円、新株四〇四円を示していた。(甲第一七号証の二)

3、昭和三六年四月一日の終値は、四一七円(甲第一八号証の二)を示していた。

4、昭和三六年七月三一日の終値は、五〇六円(甲第一九号証の二)を示していた。

5、昭和三六年九月二七日の終値は、五三〇円(甲第二〇号証の二)を示していた。

6、昭和三七年二月一四日の終値は、七五六円(甲第二一号証の二)を示していた。

(二) 昭和三六年一月から昭和三七年二月までの月間高値、安値、平均価額、出来高数等次の如し、

1、昭和三六年一月中(甲第九〇号証の一、二)

(1) 高値四二〇円、安値三六一円、平均三九〇円五〇銭。

(2) 出来高数九五七万六千五百株。

2、同年二月中(甲第九一号証の一、二)

(1) 旧株高値四三六円、安値三八五円、平均四一〇円五〇銭。

(2) 新株高値四二三円、安値三七一円、平均三九七円。

(3) 出来高数(新旧)七〇五万三千五百株。

3、同年三月中(甲第九二号証の一、二)

(1) 旧株高値四一八円、安値三六〇円、平均三八九円。

(2) 新株高値四一六円、安値三四九円、平均三八二円五〇銭。

(3) 出来高数(新旧)三一六万三千五百株。

4、同年四月中(三月中で新、旧株合併)(甲第九三号証の一、二)

(1) 高値四二七円、安値三八一円、平均四〇四円。

(2) 出来高数五五九万八千五百株。

5、同年五月中(甲第九四号証の一、二)

(1) 高値四三四円、安値三八四円、平均四〇九円。

(2) 出来高数七三六万一千株。

6、同年六月中(甲第九五号証の一、二)

(1) 高値四六五円、安値三七四円、平均四一九円五〇銭。

(2) 出来高数八四八万五千株。

7、同年七月中(甲第九六号証の一、二)

(1) 高値五二四円、安値四四八円、平均四八六円。

(2) 出来高数七三五万三千株。

8、同年八月中(甲第九七号証の一、二)

(1) 高値五一〇円、安値四六五円、平均四八七円五〇銭。

(2) 出来高数三四五万九千株。

9、同年九月中(甲第九八号証の一、二)

(1) 高値五四五円、安値四五六円、平均五〇〇円五〇銭。

(2) 出来高数一、〇八九万九千株。

10、同年一〇月中(甲第九九号証の一、二)

(1) 高値五三一円、安値四八五円、平均五〇八円。

(2) 出来高数三三七万六千株。

11、同年一一月中(甲第一〇〇号証の一、二)

(1) 高値五四三円、安値五〇二円、平均五二二円五〇銭。

(2) 出来高数二二四万六千株。

12、同年一二月中(甲第一〇一号証の一、二)

(1) 高値五七九円、安値五一〇円、平均五四四円五〇銭。

(2) 出来高数六五二万六千株。

13、昭和三七年一月中(甲第一〇二号証の一、二)

(1) 高値七五七円、安値五六五円、平均六六一円。

(2) 出来高数五四六万三千株。

14、同年二月中(甲第一〇三号証の一、二)

(1) 高値七六七円、安値七〇〇円、平均七三三円五〇銭。

(2) 出来高数二五一万一千株。

(一二) 控訴人の右主張は、発行価額決定後、上昇した株価そのものを発行価額決定の基準とせよというのではない。要は前記の(一)ないし(二)の各号において明らかにした通り、発行価額決定前既に、株価上昇の原因顕著であり、また、その事実が現実となつたことを明らかにしたもので、結論的には、被控訴人等は、当然に発行価額決定日前日の終値三六五円の公正発行価額で引受けなければならなかつたのに、敢えてそれより低い三二〇円で引受けた事実が、商法第二八〇条の一一にいう著しく不公正なる発行価額を以つて本件新株を引受けた者である、と重ねて強調するものである。

三、被控訴人等(被告)が、横河電機に対し支払を為すべき金額は、

第一段として

金五、三六二萬五、〇〇〇円也

内訳

(1) 金四、〇一二萬五、〇〇〇円也

前記二で訂正した公正なる発行価額三六五円から五%を減額した三四六円七五銭から更に発行価額三二〇円を差し引いた二六円七五銭に対し一五〇万を乗じた金額である。

(2) 金一、三五〇萬円也

引受手数料の名目によつて被控訴人らが受取つた一株につき九円に対し一五〇万を乗じた金額である。

第二段として

金四、〇一二萬五、〇〇〇円也

右第一段の(1)の金額である。

引受手数料については百歩を譲りこれは差額支払金額とは別個のものであるとして請求金額に算入されない場合、引受手数料を除いた金額

四、本控訴に於ては、右第一段、または、第二段の何れの場合でも被控訴人等は、右のうちから株式会社横河電機製作所に対し各五〇〇万円宛の支払いを為すべきである。

別紙

被控訴人らの主張

被控訴人らの主張は原判決の事実摘示に記載するとおりであつて、別紙控訴人の主張に記載の事実中、右被控訴人らの主張に反する部分は、争う。

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